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多様性と管理社会が生んだシンガポールの集合住宅―ピーター・スタインハウアー「Singapore Number Blocks」三木学

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日米のWIREDにドイツ人の写真家、ピーター・スタインハウアーが撮影したシンガポールの集合住宅の写真シリーズ「Singapore Number Blocks」が紹介されている。

 

この構成的なマンションにポップな配色は、既視感があるようでいて新鮮さを感じる。モダニズム的な集合住宅とポップな配色は、モダニズム建築の巨匠、ル・コルビジェの建てたユニテ・ダビタシオンを想起させるし、パステル調の配色はマイアミビーチに建てられたトロピカル・デコと呼ばれるアール・デコ建築群を思い起こさせる。

 

しかし、フランスともマイアミとも異なる色彩センス、ユニテ・ダビタシオンをはるかに超えた規模と多くのパターンからなるシンガポールの集合住宅には目を見張るものがある。特に集合時住宅に大きく貼られているユニークなフォントの番号は特徴的である。

 

下記に書かれているように、撮影された集合住宅は、シンガポール政府が作った公共住宅で、様式がある程度似ているのも頷ける。日本で言えば、かつての日本住宅公団公団住宅(現在はUR都市機構に移管)のようなものだろう。

シンガポールでは、国民の80パーセント以上は補助金付きの集合住宅に住んでいる。かつてこの街の大部分を占めていたスラム街や掘立小屋、店舗兼住宅などは、1960年代に政府が取り壊しを始め、こうしたマンションへと姿を変えた。

公共住宅にも関わらず、そのカラーリングやフォント、様式の多様性などにスタインハウアーは惹かれたという。撮影は1年をかけて、高解像度のデジタカメラ、フェーズワンを用いて、細部が良く描写できるように曇天の日を選んで撮影されたという。さながら、ベッヒャー夫妻のタイポロジーであるが、タイポロジー的な意図はそこまでないかもしれない。

 

多民族国家であるシンガポールには、たくさんの民族、宗教の人々が混じり合う。こららの集合住宅にも、ヒンドゥー教徒イスラム教徒、キリスト教徒、仏教徒などが隣り合って住んでいるという。特にゾーニングなどが行われているわけではなさそうである。そのような見えない多様性も、集合住宅には含まれている。

 

一方、シンガポールは明るい北朝鮮と揶揄されることもあり、それらの多様性すら、国家によって管理されているかもしれない。これらの集合住宅が意味するものが、多民族国家の理想郷か、ソフトな管理社会かは分からない。しかし、アジアの多民族国家シンガポールで花開いたモダニズムの一つの様式として十分に注目に値するものだろう。

 

参考文献