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知的財産権と契約「新国立競技場再コンペ(4)」三木学

headlines.yahoo.co.jp

 

採択された隈研吾氏らによる、新国立競技場再コンペのA案が、自分たちの設計とそっくりであるとザハ・ハディドが主張し、知的財産権の調査を始めるとの報道があった。

 

ザハ側は法的処置、つまり裁判をするか未定としている。未定ということは裁判をする可能性もある、ということになる。ネット上では、今さら何を文句を言っているのだ、という論調が多いが、ザハ側にとったら当然の主張に過ぎない。

 

JSCはザハ事務所と前回の設計を含むプランに対して知的財産権に関する契約を交わしているからである。つまり、プランはJSCに譲渡されたわけではなく、以前としてザハ事務所が保持しており、それらを勝手に利用することはできない。スタンドなど、機能性の高い設計のみで、著作権が認められるかどうかは微妙だが、「設計ないしデザインについて著作権その他の知的財産権はザハ事務所に依拠」という条項が含まれている以上、広範囲にわたってザハ事務所は権利を主張できる可能性は高い。

 

よく著作権があるかどうか、ということが問題になるが、著作権などの法律が浮上するのは、契約を交わしてないケースである。通常ビジネスでは、不当契約ではない限り、契約が重視される。

 

今回の場合において、契約主体は、JSCとザハ事務所である。だから、JSCがそれを無視して、前回プランの設計を流用、微修正する形で設計をしたならば、訴訟対象になるのはJSCである。そこで工事が止まる可能性はある。記事ではJSCは「事業者が解決する問題だ」としているようだが、解決するのはあくまでJSCである。

 

再コンペの要綱に、「第三者著作権などを侵害するものではないことを発注者に保証する」とあったとしても、一義的には事業者が解決する問題ではない。事業者が直接、ザハ事務所と契約しているのではないからだ。もし、JSCがザハに訴訟を受け、敗訴し、損害賠償を支払った場合、要綱を破った事業者に、賠償金を支払わせることはできるだろう。

 

しかし、あくまで契約の構図は以下である。

JSC-ザハ事務所
JSC-新事業者

ザハの訴訟を、新事業者が解決することは契約上できない。

 

訴訟された場合のリスクも想定しておかなければならないだろう。その場合の解決策は、B案を選ぶか、ザハと知的財産権の使用許諾契約をするかの二つになる。

 

エンブレムの時にも露わになったが、日本社会はクライアントがクリエイターの知的財産権に対して軽く考えすぎている風潮がある。クリエイターの方もよく理解してないケースが多い。しかし、世界では、日本社会の階層構造などは無関係なので、容赦なく訴訟されるだろう。

 

今後は、世界に開かれたコンペをする場合は、知的財産権リスク管理やマネージメントを世界レベルに引き上げることは必要不可欠である。同時に、日本のクリエイターももっと知的財産権に対して、深く理解しなければならないだろう。一連の騒動は日本がクリエイティブ社会になるための試練だと考えた方がいいだろう。

 

関連文献

 

ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)

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著作権とは何か―文化と創造のゆくえ (集英社新書)

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