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ビジュアルレビューマガジン

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螺旋都市東京を表象する方法とは?「五輪エンブレムと東京の図像」三木学

デザイン 東京五輪

http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01921/bunko06_01921_0002/bunko06_01921_0002_p0001.jpg

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御江戸大絵図 / 高井蘭山 図


東京五輪エンブレムは、パブリックなデザインを巡る様々な問題を浮上させている。先日、佐野研二郎氏と組織委員会の記者会見が行われたが、著作権侵害を主張しているベルギー在住のデザイナー、オリビエ・ドビ氏とベルギーのリエージュ劇場は、IOCとJOCを相手に訴訟をするかまえだ。

 弁護士等、知財の専門家の大方の見方通り、おそらく著作権侵害にはあたらないだろうし、もしこれで著作権侵害と認められたならば、オリンピックなどの大型イベントのデザインは、訴訟のかっこうのターゲットになってしまうだろう。オリビエ・ドビ氏の対応も大人げないと思うが様子をみるしかなさそうだ。

 

今回はデザイン上の課題として、なぜベルギーのリエージュと日本の東京というまったく異なる歴史と文化を持つ都市のロゴマークが似てしまうのか考えてみたい。

 

佐野氏は、記者会見でTOKYOのTと、1964年に亀倉雄策がデザインした東京五輪のエンブレムの日の丸を重ねたのが最初のインスピレーションであると述べていた。一方、オリビエ・ドビ氏はTとLを組み合わせている。

 

そもそも都市の名前を一文字で表象するのは難しいだろう。それなら全世界のTが頭文字の都市や商品のロゴが似てしまうということになる。実際、類似デザインが多いのはそういう理由も一因にある。

 

具象的なモチーフとなると、日本の場合、日の丸、桜、富士山などが多いが、東京を表象しているわけではなく、日本全体をイメージしたものである。1964年のオリンピックのエンブレムは日の丸がモチーフであったし、今回の五輪招致のエンブレムは桜のリースをモチーフにしていた。また、開催されなかった1940年のオリンピックのポスターには、富士山をモチーフにしたデザインがある。今まで典型的な日本のイメージが使われてきたといえる。

 

日本自体が世界的に認知度が低い場合は、都市をイメージするものを表現しても海外から理解されないだろうが、世界都市となった今日の東京では状況は異なるだろう。104作の公募作品が見られないので何とも言えないが、今日のデザイナーが東京をどのように表現したかは非常に気になるところである。

 

では、東京とはどのような都市なのだろうか?それを表現できれば他都市と類似する確率は格段に減るはずだ。そういう意味でも、オリンピックのエンブレムをデザインするにあたって開催都市を表象できているかは間違いなく重要なポイントだろう。

 

佐野氏は正方形を9分割したグリッドシステムを採用したと説明している。グリッドシステムは、20世紀初頭のドイツの造形学校、バウハウスの流れを引く、ウルム造形大学(スイス)において発達した。モダンデザインの勉強をしたものなら、その基本の考え方にグリッドシステムはある。

 

簡単にいえば、方眼の升目に沿って、ロゴやタイポグラフィを配置する方法である。そうすれば、要素が整理されているように見える。Adobe IllustratorやInDesignなどのレイアウトソフトを使用していれば、その思想が組み込まれているので、グリッド上に配置するのは容易である。正方形を9分割し、各要素を配置する方法は、そのようなモダンデザインの延長上にあるものだともいえる。

 

一方で曼荼羅のようなアジアのシステムを採用したとも捉えることは可能だ。もし曼荼羅を意識していたならば、金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅は対になっているので、オリンピックとパラリンピックのエンブレムと二つで対になるようデザインしたということも言えただろう。金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅の中心にある仏様は大日如来である。大日如来が太陽神に由来している説もあることを考えると、日の丸の意味も増すだろう。

 

ただし、金剛界曼荼羅における大日如来の位置は、9分割した升目の一行目の真ん中にあり、胎蔵界曼荼羅の場合は中央にあるので、一行目の右に置いた時点で関連性は薄まる。東洋的な発想があれば、もう少し違ったデザインになっていたかと思うと惜しい気がする。

 

例えば、京都や奈良のようなかつての中国をモデルにした都市であれば、グリッドはより説得力を増しただろう。実際、碁盤の目と言われており、上空から見るとまさにグリッドが浮かび上がる。かつて大極殿が南北を貫く朱雀大路の北端にあったことを考えると、一行目の中央であればそのような説明もできたかもしれない。

 

また、大阪の中心地区である船場も、東西約1km、東西約2kmの碁盤の目になっている。もともとは大坂城の城下町なので、東端にある大阪城を中心に東西軸の「通り」が主であったが、明治以降に地下鉄や自動車が発達したため南北軸の「筋」が発達したという経緯がある。正確に言えば、大阪城は船場の東北の端にあるので、大阪五輪のエンブレムだとしたらぴったりだったかもしれない。中央の黒い帯は、御堂筋だということもできる。

 

では、東京の場合はどうか、ということである。東京は江戸の町がベースになっており、江戸は江戸城と広大な武家屋敷を中心とした螺旋形が基本の形である。明治以降、江戸城は皇居に、武家屋敷は官庁街に代わった。関東大震災までは街路が非常に狭く、何度も都市火災に見舞われている。関東大震災後の復興計画で、後藤新平は大幅に予算を削られたこともあり、街路沿いの東京市民から少しずつ土地を提供してもらう形で区画整理をし、延焼を防ぐため道幅を広げた。

 

同時に、後藤新平は東京から放射状に伸びる道路と環状道路の整備をし、現代の東京の交通基盤を作った。しかし、延焼を防ぐための街路樹などは、戦後になって地下立体交差や首都高速道路の建設のために喪失している。河川の多くも、空襲で焼けた瓦礫の処理のため埋め立てられたり、高速道路が建てられたりした。

 

とはいえ、皇居を中心とした螺旋形の街という都市の骨格は変わることはない。今日では地下鉄や地下街が複雑に張り巡らされ、地上には巨大なビル群が建てられている。つまり、スパイラル状の町は、立体的なヘリックス状の街に変化したといえるだろう。

 

そのことから考えると、螺旋形(へリックス)こそが、東京を表象する一つの図像であるといえる。螺旋形(へリックス)の3次曲線を使えば、それほど類似デザインもないだろう。例えば、五輪の左から、青→黄色→黒→緑→赤になっていく螺旋形(へリックス)の図像はどうだろうか?パラリンピックは、逆回転にして二重螺旋にすればまさにDNAの意味合いを持つ。それなら最終的に赤になって、日の丸も継承できるし、まさに、1964年の東京五輪エンブレムのDNAを引き継ぐことにもなると思うが、皆さんはいかが思うだろうか?デザイナーの方は今後の参考にしてもらえれば幸いである。

 

参考文献

 

アースダイバー

アースダイバー

 

 

 

大大阪モダン建築 輝きの原点。大阪モダンストリートを歩く。

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本づくり大全―文字・レイアウト・造本・紙 (新デザインガイド)

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