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ソーシャル・グラフィック・デザインは可能か?-日本最大のデザインコンペ「東京オリンピックとデザインの行方(12)」三木学

tokyo2020.jp

http://emblem.tokyo2020.jp/jp/guidelines_JP.pdf

東京オリンピックのエンブレムの新しい公募要項が発表された。新エンブレムの公募に関しては、委員長を含め、多分野の専門性を持つ21名(10月16日現在)の識者を審査委員にして意見を集めたり、ソーシャルメディアによるアンケートや、ハッシュタグを使ったプロモーションを行っており、撤回されたエンブレムの公募と比較すると、はるかに開かれた試みをしている。そのことについては評価すべきだろう。

 

また、新エンブレムを公募するにあたって、キーワードやビジョンを再設定することで、いったい何のためのオリンピックなのか、明示化されたことも大きい。内容がいいかどうかよりも、ビジョンを国民が注目する環境で設定されたことの方が重要である。

東京2020大会ビジョン

スポーツには、世界と未来を変える力がある。
1964年の東京大会は日本を大きく変えた。2020年の東京大会は、
「すべての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)」、
「一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)」、
「そして、未来につなげよう(未来への継承)」、
を3つの基本コンセプトとし、
史上最もイノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会とする。

 

また、前回の反省からか、応募要件には、幾つかの注意事項がある。特に盗用などに関わる知的財産権に関する記述は以下である。これは実質、盗用であった場合、損害賠償も含めて責任を追うことを求めている。ただし、このようなロゴやシンボルマークにおける規約としては一般的のことである。

第三者の著作権、商標権、意匠権、その他一切の知的財産権等の権利を侵害するものではないこと、ならびに、それらの違反があった場合には、その一切の責任を負うとともに組織委員会ないし、IOC、IPCに一切の迷惑をかけないことを確約していただきます。

 

ただし、全体スケジュールが押しているため、公募期間が短い。12月7日(月)午後までということなので、1カ月弱しかない。この期間の短さがは応募の幅を狭める要因になるだろう。また、応募サイトからのデータ投稿という仕組みも、ITに弱い人の応募の障壁となると思われる。これらが実質上、応募者の技能的な選定要因になっている。

 

また、以下に記載のようにエンブレムのデザインの権利の一切は譲渡される契約になっている。

当該作品に関する著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含みます。)商標権、意匠権、その他の知的財産権、所有権等一切の権利を組織委員会に無償で譲渡し、また当該作品に関する著作者人格権その他一切の人格権をを組織委員会およびその指定する者に対して行使しない旨をご了解いただくとともに、組織委員会またはその指定する者等により商標・意匠の出願・登録があるため、その旨ご了解いただきます。

 

それに対する賞金と賞品は、前回と同じ100万円(税込み)オリンピックとパラリンピックの開会式の招待である。これは、前回が限定されたデザイナーに対しての公募であり、賞を獲得した後は、波及効果としてかなりの仕事が保証されたことを考えるとかなり安いといえるだろう。ロンドンオリンピックのエンブレムは、イギリスのデザイン会社Wolff Olinsのデザインが採用され$625,000、約5000万程度(当時のレート)である。その範疇がデザインだけではなかったかもしれないが比較するとかなり安いといえる。

stocklogos.com

 

あのロゴ、このロゴ、お値段はいくら? : ギズモード・ジャパン

 

公募デザインの権利が譲渡契約であること、その後の責任が破格に重いことを考えると、賞金に対しても見直してもよかったかもしれない。ただし、現在の世論から考えると、条件を変えるのが難しかったのは理解できなくはない。

 

後は、選考システムであるが、国民投票のようなことは、時間的にも費用的にもかなり難しいと思うが、前回よりは公開性のあるシステムが採用されるだろう。

 

どちらにせよ、期間のことを考えると、前回、参加したデザイナーが圧倒的に有利なはずである。前回かなりの試行錯誤しているはずであるし、条件の変更に伴ってデザインを修正する対応力も優れているはずである。失墜した信用やデザイナーの技能を示すためにも必ず応募すべきだろう。もしプロのデザイナーが選ばれなかったら、現状保持している専門性は大規模公募には適合しないと社会的に認識されかねない。

 

くしくも今回は、日本全体を巻き込んだ、最大のデザインコンペになったことは間違いない。公募過程も含めてソーシャル・グラフィック・デザインということもいえるだろう。結果はまた賛否が分かれると思うが、それは現在の日本のデザイン民度として受け止め、未来へつなげる必要があるだろう。