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「サプールの色彩感覚」三木学

 

SAPEURS  - Gentlemen of Bacongo

SAPEURS - Gentlemen of Bacongo

 

 

matome.naver.jp

 

www.kyotographie.jp

昨年末、NHKの「地球イチバン」で大きな反響を呼んだコンゴ共和国の「サプール」は、今年に入っても波を起こし続けている。もうすぐ元ネタとなった写真集が青幻舎から出版される。また、今週末から始まる、京都国際写真祭「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」においても、サプールを記録した映像作品が展示される予定だ。(5月10日まで)

 

お世辞にも豊かとは言えない、コンゴ共和国の男たちが、ブランドを着飾って町を練り歩く、安土桃山時代の傾奇者にも通じるようなその美学に、視聴者は目をむいたことだろう。ポール・スミスがサプールを撮影した写真集に驚愕し、参考にしたということでも話題になった。

 

サプール(Sapeur)とは、フランス語の「Société des ambianceurs et des personnes élégantes」(お洒落で優雅な紳士たち)の頭文字であるSAPE(サップ)とよばれるファッションを楽しむ人々という意味だ。

 

60年代のパリの紳士を手本にしたスタイルらしく、フランス統治下の影響を色濃く受けている。コンゴ共和国は、1882年からフランスの植民地であり、1960年に独立した。その後、社会主義革命が起こりコンゴ民共和国になっていたが、冷戦後の1991年に体制が崩壊し、新体制となりコンゴ共和国に名称も戻った。しかし、90年代にかけて内戦が起こり、サプールたちもその影響を受けたことについて地球イチバンでは放送されていた。

 

赤道に近く、国土の約半分は熱帯雨林であり、首都ブラザヴィルの年平均気温は25℃、年降水量は1,367mmでとのことなので、高温多湿でフランスとは大きな違いがある。全身スーツのお洒落な格好をしても、ずぶ濡れになるか、湿気と汗でベトベトになるだろう。放送でも雨が降っていたり、汗だくになるシーンが見受けられた。

 

そしてなにより、非常に貧しく、月収3万円程度しかない。3割の人々が1日の生活費は130円以下で暮らしているという。その大半を欧米のブランドに費やし、週末になると町を練り歩く。貧困の中で、お洒落に着飾ることで、非日常的な体験をすることが生きがいであることもあるし、90年代の内戦を経て得た、非暴力、高い道徳性や気高さをファッションによって主張しているともいえる。

 

それにしても、気になるのはその環境とのいい意味でのミスマッチと、色彩センスの異常な高さだ。彩度の高い色の服を巧に組み合わせ、派手さと気品を同居させている色彩感覚に驚く。もともと現地の民族衣装から得たセンスなのか、フランス文化圏による影響なのか、その両方なのか。

 

対極の色彩空間に住む日本人にとってもカッコいいと思える色の洗練がどのように形成されたか、もう少し深い理由を探りたくなる。色彩感覚はそれほど簡単につかないからだ。公用語にもなっているフランス語や、文化的慣習がどのようにハイブリッドな色彩感覚を生んだのか?世界を驚かすファッションの力とともに、人類学的な視点でも面白い現象だといえる。

 

参考文献

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

フランスの色景 -写真と色彩を巡る旅

 

 

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