「演技する脳」三木学
サピア=ウォーフの仮説とも言われる、言語が思考を決定する、という言語的相対論と、チョムスキーを代表とする言語は生得的であり普遍的であるという言語普遍論は、振り子のように振れながら言語学の歴史は進化している。
以前紹介したガイ・ドイッチャーの『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』には、言語が知覚に影響を与え、色彩弁別に作用する実験結果が報告されている。さらに、先日、WIREDで紹介されていた、ランカスター大学の言語学者、パノス・アサナソプロスの研究によると、マルチリンガルの話者が、言語を切り替えたとき、その言語に特有の認知に変わることを報告している。
使う言語が「世界の見え方」を決めている:研究結果 « WIRED.jp
最近では、通常のマルチリンガルの被験者も増えたのか、異言語をスイッチしたときに、思考方法が変わるということが明らかになりつつある。それだけではなく。よく英語をしゃべると人格が変わるといわれるが、それは比喩ではなさそうだ。BBCが紹介している、マルチリンガルの俳優Michael Levi Harris氏の、多言語をマスターするために真似る、という方法は、異言語をマスターするのは、役者が別の人格を獲得するのに似ているということを象徴的に表している。
色彩感覚や知覚にまで影響を与えるのは、環境を含めたまた別のメソッドが必要かもしれないが、言語の獲得は全人格的であるということは今後さらに明らかになっていくかもしれない。逆に言えば、人格が変わらないレベルで獲得している多言語は、それほどマスターしていないということになるのかもしれないが…。
参考文献
関連記事