ホワイトハウスにかかる虹―「6色の虹」三木学
今、世界は虹色で染められている。ホワイトハウスが虹色にライトアップされ、アメリカを中心に街では虹の旗を持つ人々が練り歩き、Facabookのプロフィールを虹色にしている。
多くの人がご存知の通り、6月26日、全米で同性婚を認める判決が連邦最高裁で言い渡されたことを記念したものであり、虹色は性の多様性を表すシンボルカラーとして、象徴的に使われている。かつては、アメリカのようなキリスト教の強い国において、同性愛が認められることはかなり難しく、歴史的な転換点となったといえる。
さて、ごく一部の人は気づいたかもしれないが、今回アメリカで使われている虹色は6色である。赤、オレンジ(橙)、黄、緑、青、紫である。気付いていなかった方は数えてみてはどうだろうか?日本では、虹は7色であると習ったと思う。かつては、赤橙黄緑青藍紫(せきとうおうりょくせいらんし)、あるいは赤橙黄緑青藍菫(せきとうおうりょくせいらんきん)と丸暗記していた。
虹が7色ではない国や民族があることは多くの人の知るところだろうが、近代化された国においては、7色が一般的であると思っている人は多いだろう。実はそうでもない。そのことについては、鈴木孝夫の『日本語と外国語』の第2章「虹は七色か」に詳しい。一般大衆のレベルでは、フランスと日本は7色、イギリス、アメリカは6色、ドイツは5色、ロシアは4色から7色までとマチマチ、となっている。科学的な記述となると、7色が多くなるが、大衆レベルだと先進国でも差が出る。
そもそも虹は、色の連続的な変化であり、単色光の配列、スペクトルであるため、それを分割することは恣意性が高い。普通に虹を数えてみたら、7色を識別できる人はそれほど多くないはずだ。たいてい6色程度になるのではないか。
虹が7色であるということを、日本人が常識と思うようになったのも、ニュートンがプリズムの分光実験で、スペクトルを7色としたことが大きい。特に問題となっているのは、青と紫の間にある藍=indigoである。当時、それほど一般的ではなかったindigoを持ち出してまで7色にこだわったのは、音階のオクターブが7音であり、その周波数が整数で割り切れることによって、和音が奏でられるという、音楽とのアナロジーを強く意識したからだと言われている。
そこには当時、音楽が、数学、幾何学、天文学と並んで重要な学問であったという歴史的な背景がある。さらに、ピタゴラスやプラトン、アリストテレスなどの古代ギリシアの哲学の伝統や、直接的には天文学者ケプラーの影響もあるとされている。
とは言え、ニュートンでさえ、太陽光をプリズムで分光したとき7色をはっきり見ることができず、助手が確認したのだ。『光学』には以下のような記述がある、という。
「そこで私は一枚の紙にスペクトルの輪郭を描き、そこに正確にスペクトルがおちるように紙をおさえ、その間、色の識別には私よりも目のよい助手がスペクトルの色を分割するように直線をひいて色の境目を示した。同じことを同じ紙や別の紙の上で何度もやったが観察は互いによく合っていた」
助手が目が良かったのか、「7色であらなければならない」という観念にとらわれていたのかはわからないが、少なくとも、6色程度の弁別ができるというのが一般的な虹の見え方だろうと思う。
色の認識の問題は、今日においても、社会的事件や社会的転換点において、思わぬ形で顔を出す。今回、性の多様性を虹のアナロジーで表現するということは象徴的でとてもよいことだと思う。同時に、虹の見え方自体が多様性があるということは覚えておいてもいいだろう。
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